コンサルタント1年目の教科書

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【書評:隷属なき道】なぜベーシックインカムは実現しないのか?実現させるべきなのか?

ドガー・ブレグマン著、「隷属なき道~AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働~」の書評記事を書いていきたいと思います。

この本の要約

過去最高の経済発展を遂げているにもかかわらず、最大の不幸に悩むのはなぜなのか

一人当たりの所得は150年前と比べ10倍に増え、世界経済は産業革命前の時代と比べ250倍に膨らんだ。人々の平均寿命は100年で2倍以上になった。

中世の人々から見たら現代はユートピアそのものだが、我々は今よりもいい未来を描けていないために幸福を感じることができないでいると著者は主張する。若者は「自分が特別な人間である」と思いながらも現状の生活を維持するのに精いっぱいで、飽き飽きしている。資本主義だけではこれからの未来を築いていくのには不十分で、生活の質を上げる別の道を探さなければいけないのだ。

約40年前にもベーシックインカム案が提言されていた

過去のデータから、貧困者を救う際に福祉を与えるよりも現金を給付したほうが効果が高いことが分かっている。また、我々人間は貧困によってIQが13ポイントも低下する。経済的な余裕ができて初めて、私たちは希望をもって生きることができる。

1960年代にニクソンはアメリカでベーシックインカム案を成立させようとしていた。しかし、イギリスで行われたベーシックインカムの実験によって人々が怠惰になり、治安が悪化したという結果の報告を受け、1970年代には人々から大きな反対を受けた。のちにその調査結果は間違いで、本当は大きな効果があったことが判明したものの、世界初のベーシックインカム案は成立せずに消えてしまった。

富を生み出す仕事と富を動かす仕事

仕事には2種類ある。富を「生み出す」仕事と、富を「動かす」仕事である。富を生み出す仕事は主に第一次産業第二次産業からごみ収集など多岐に渡る。一方で、富を動かす仕事は主に金融関係の仕事である。具体的には銀行員や会計士、弁護士の一部の業務である。そしてやっかいなのは、後者は前者よりも圧倒的に給料が高く、優秀な頭脳を持つ人々が銀行や会計事務所に集まり。意味のない仕事をしているという自覚がありつつも自らの収入のために働くのをやめられないことである。画期的な新製品を生み出す企業の研究員よりも、タックスヘイブンを利用して企業の税金を安くする手助けをする会計士の方が儲かるのである。こういった現状を是正するためには、高所得者に高い税金をかけ、より価値のある仕事は給料を引き上げる必要がある。

AIに勝つことはできない

2045年にはAIが人間の10億倍の頭脳を持つようになり、格差は深刻化する。近い将来でさえ、ホワイトカラー中間層の仕事は急速になくなっていき、またテクノロジーによってより少ない人数でビジネスを成功させることができるようになっている。テクノロジーを手放したくないのであれば、残る選択肢は再分配しかない。ベーシックインカムと労働時間の短縮がその具体的な方法である。

国境が富の増大を阻害する

21世紀の真のエリートは望ましい国で生まれた人々である。すでに賃金の格差は地球規模のアパルトヘイトとも呼べるくらいになっており、移民に対する多くの誤解がはびこっている。

アメリカは移民が作った国である。大方の人はさかのぼれば移民にたどり着く。移民を制限することは、短期間で見れば安いコストで外国人を使えるため自国の利益になりうるが、中長期的にみると貧困をなくすことが世界の経済発展につながるのだ。

まとめ:ベーシックインカムとは人々のためのベンチャーキャピタルである

ベーシックインカムは、現在の福祉よりも効果が大きく、より良い世界をつくっていくために必要なものである。スイスではベーシックインカム案が否決されたが、これはようやく議論が始まったと考えるべきである。50年前には女性の選挙権すら認められていなかったのだから。世の中に自分と同じような人間がたくさんいることを知り、図太く人が語る常識に流されないように心がければ、ベーシックインカムは必ずや実現に向かうであろう。

 

感想

個人的に興味のあったベーシックインカムに関する著書でした。

ベーシックインカムをやる必要がある理由としては世界は十分豊かになっているのに無駄な労働が多いというのと、AIの台頭により生きていけなくなる人々が無視できない数存在すると思っているからで、どちらにも言及されていてよかったと思います。ベーシックインカムは福祉として支援するよりも数倍効果があるということがデータを交えて解説されていたのは参考になりました。なかなか実証しにくい部分だと思うので、ベーシックインカム否定派からしばしば語られる、人間が怠惰になってしまう等の論に反論できる貴重な材料になっているかと思います。

そして最後に、ベーシックインカムが実現されない大きな理由として突飛な案は反対を受けること、そしてその反対を跳ね返すためにできることなども書かれていて参考になりました。

具体的な事例やデータまではご紹介できていないので、この記事を読んで興味がわいてきましたら是非ご一読してみることをお勧めします。